日々徒然Highmount

Highmountが感じたこと、興味をもったこと、やってみたこと、ひたすら書き込んでみる。

「チャッピー」はアクションだけのSFじゃなかった。(ネタバレ注意)

映画のCMを見て、とても見たかったけど結局見に行くことが出来なかった「チャッピー」
第9地区」や「エリジウム」を撮ったニール・ブロムカンプ監督作品。*1*2
第9地区ヨハネスブルグが舞台だったけど、今回のチャッピーもヨハネスブルグが舞台。
監督の故郷だからというのもあるけど、両作品ともヨハネスブルグを舞台にしたからこそ成立する作品なんだろうなと思う。

なお日本で公開された作品はレーティング(年齢制限)を下げるため、かなりカットされて公開されたという。
そんなわけで、どうせなら本来のレーティングのものが見たいということで、ブルーレイでアンレイテッド・バージョンを購入して視聴した。

 

話の筋はもうここでも見ておくんない。完全にネタバレだけど。

チャッピー (映画) - Wikipedia

ケープタウン出身のラップグループ「Die Antwood」のニンジャとヨー=ランディ・ヴィッサーが名前そのまま*3で出てて、ある種Die Antwoodのプロモーションビデオ的でもあるけど、作中BGMにもなっている、シンディ・ローパーをテクノとレイヴとラップで味付けしたといった感じなヨーランディの歌声はと曲調は妙に癖になる。

ちなみに主人公のロボット、チャッピーの中の人*4第9地区でも主役だったシャールト・コプリー*5
そのライバル役はX-MENなどでもお馴染みのヒュー・ジャックマン。二人の会社の社長はエイリアンシリーズなどでお馴染みのシガーニー・ウィーバー。これだけでもすげー豪華。*6

この監督の作品はハチャメチャなSFのなかに人種問題とか格差社会とか貧困問題とか立場と価値観の違いとか、かなりリアルなテーマを上手く練りこんでくるので、結構見応えがあると思う。
特に人種問題については、アパルトヘイトを経験した南アフリカならではの視点というか、人種問題を抱えていてもアメリカ人ではこうは上手くは表現できないだろうなと思ったり。
チャッピーでも、人間とチャッピー(ドロイド、あるいはスカウトと呼ばれる警察用ロボット)の対比とかで人間ってズルくて見難い生き物のように見えたり、ニンジャたちって本質的に悪党でしかないのに、気がついたらなんかいい人達のように感じてしまったり、人間の倫理観や価値観なんて本当にいい加減なもんだなぁと思ったりも。

ちなみにレーティングでカットされたのは、ムースに胴体を真っ二つにされたアメリカの最期とか、チャッピーがヴィンセント(ヒュー・ジャックマン)をフルボッコにするシーンなのかなと思うけど、特典映像に入ってるフルボッコシーンの別バージョンは、僅かなカットの違いだけどこれは日本では流せないだろうなと思わなくはない。*7

てか、失敗警察ロボであるムース、同じく失敗警察ロボであるED-209とロボコップ2号を足して2で割ったような外観なのが笑える。
しかし操作は脳波コントロールとか、マクロスプラスのYF-21かよ……ただの遠隔操作なら米軍のプレデターとかのUAVっぽくてかっこいいんだけど。*8
そういえばチャッピーをはじめとするスカウトのデザインは、士郎正宗の「アップルシード」がモチーフになっているとのことで、あの頭部のデザインはやっぱりブリアレオス・ヘカトンケイレスなんだなぁと。
後半のチャッピーの振る舞いは「意識」がキーワードになるので、意識をゴーストと読み替えると、士郎正宗の「攻殻機動隊」っぽい感じにもなってくる。
ところで、後半に進むにつれてやたらとサイバーパンクになっていく本作、チャッピーが黒い羊の絵本についてやたら口にするのは、唯一ママ(ヨーランディ)に読んでもらった絵本だからというのと、後半から結末に対する伏線ってのがあるんだけど、サイバーパンクの代名詞のひとつ「アンドロイドは電気羊の夢を見るか?」に引っ掛けてるのかな?という感じもする。
テーマだけを語るなら、みにくいアヒルの子でもよさそうなもんだけど、そこを敢えて黒い羊にしちゃうんだから。

ブルーレイの映像特典には前述のフルボッコシーン別バージョンの他に、エンディングの別バージョンも収録されている。
チャッピー大増殖は色んな意味で笑えるが、まあ確かにこれでは締まらないよな。
それはそれとして、最後の1体には特別なボディが与えられるが、チャッピーは自分たちを増殖させはするのに、自分が失われるのに備える予備機を作ってる感じはしないし、自分たちをカスタマイズして識別、個別化している気配もない。*9
チャッピーは同じ意識(ゴースト)を共有しているとはいえ、記憶ストレージまでを共有している感じはしないので、これって、独立した個体(チャッピー)が結果的に集団的総意(チャッピーの増殖と、最終的に「あの人」の復活)に基づく行動をする、スタンドアローン・コンプレックスだったりするのだろうか……
同じ意識を有していたとしても、活動している環境次第で如何様にも変わるのは、前半から散々やってきたわけだし。
意識を複製して増殖できるにもかかわらず、意識を宿さないスペアボディを持たないのは、たとえ個体が人間に破壊されたとしても、チャッピーの意識は失われることがない故なのだろうか。
……うーん、やっぱりこのエンディングだといろいろややこしいので、採用しなくて正解だったと思う。

とにかく面白いし、いろいろ考えさせられる作品だった。

 

さて、Pepperがチャッピーのようになれる日は来るのだろうか。
まず間違いないのは、2016年には間に合うまい。

*1:そういえばニール監督、タメなんだよなぁ。やっぱり才能持ってる人ってすげえなぁ。

*2:なおエリジウムは未見。

*3:ギャングのニンジャ役とヨーランディ役

*4:声だけじゃなくてモーションキャプチャーもやってるそうなんで、文字通り中の人と化している。

*5:ちなみに吹き替え版の中の人は川島得愛ケータイ捜査官7のフォンブレイバー・サードを思い出した。

*6:そういえばニール監督の次回作「エイリアン5」では、シガーニー・ウィーバーがリプリー役で出るらしいが……

*7:ここのヒュー・ジャックマンウルヴァリンではないので、超回復したりアダマンチウムの爪でチャッピーを切り裂いたりはしない。

*8:しかしこいつが脳波コントロールでなければ、後の話がつながらないのだ。

*9:唯一個別の存在であるのはテスト機に意識を移した“創造者”だけだろう。